2012.12.04
常識を疑い、自分の頭で考える力はあるか?―ライフネット生命社長出口治明の仕事論[2]

常識を疑い、自分の頭で考える力はあるか?―ライフネット生命社長出口治明の仕事論[2]

ライフネット生命 出口治明社長の言葉から「組織のトップたる器とは何か」を探るインタビュー、第2回目のテーマは「人材登用」。人と同じことやっていてもビジネス的な成功は得られないと断言する出口社長。必然、人材登用に関しても年齢や国籍に関わらず「人と違うことを考える能力があるか」がポイントになるという。

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即断即決を実現する、意思決定の極意―ライフネット生命社長 出口治明の仕事論[1]
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人材登用とは、「他人と違うことを考える力」を見極めること。

― ライフネット生命といえば、若手人材を抜擢する会社という印象があります。


ええ、平均年令は37歳くらいです。ただ正確には「若手の人材“も”活躍している」というべきでしょう。今年の春から7人ほど採用して、そのうち2人は60歳を超えています。

うちの会社のコアバリューは“ダイバーシティ”です。会社の憲法たる基本理念に「年齢フリー」と明記している以上、人事部のスタッフは年齢を見ません。たまたま採用したいと思った人の中に60歳を超えている方がいたと、それだけのこと。高齢化社会ですし、何の問題もないですよ。


― その人材登用の考え方にも、出口さんならではのポイントがあるように感じるのですが?


はい、それはもう。肝になる部分です。昔から言われていることですが、人と同じことをやってお金なんか儲かるはずがありません。お金儲けしようと思ったら、人と違うことを考えるしかないと、近江商人も大阪商人もみんな言い続けています。

だから私の人材登用のポイントは、“人と違うことを考えることのできる能力があるかどうか”、これに尽きる。ゼロクリアの状態から、自分の頭で考え、人とは違うアイデアを紡ぎだすことができるか。逆に言えばこれ以外に何もないので、うちの場合は定期採用に関しても、一つ非常に重いテーマを与えて、それについて考えてもらうんです。



― 自分の頭で考える力を持っている人とそうでない人とで、アウトプットとしてどのような違いがありますか?


自分で人と違うことを考えると、イニシアチブが取れます。自分で自分の意見を言う、自分で自分のポジションをとれる、そういう行動ができるようになります。

そうそう、最近出た新しい本ですごく面白いものがあるので、読んでみてください。『採用基準』(伊賀泰代 著/ダイヤモンド社)という本なのですが、人材採用に関して考えを深めたい人にとって必読書ですね。これは古典ではないけれど、読めば“本物”であると分かってもらえると思います。少なくとも、損したと思うことは絶対にないはずですよ。僕は、自信のあるものしか人に勧めません。

いま問われる、世界を“ゼロクリア”で捉える力。

― ダイバーシティは、多くの日本企業が課題としているところだと思います。


日本企業なんて概念は“ない”んですよ。そもそも企業というものは、いろんな人が集まってある目的のために成立した集団です。そこには日本企業もアメリカ企業もないでしょう? 日本企業という言葉を使っていること自体、何も考えていない証拠です。日本とアメリカの企業は当然違うはずだという誤った先入観を疑っていないわけだから。



― たしかにそうですね…。とすると、“グローバル化”というのも、そもそも誤った概念だと。


その通り、企業はもともとグローバルなものです。今のような国境ができたのも、歴史的にみて200年くらい前のことでしかありません。それまでの企業の商いは全部グローバルだった。企業は本来、グローバルなものとして生まれたものであって、国民国家ができて国境が明確になったことで、新しい概念として「国内企業」「世界企業」というような区別ができただけ。


― なるほど。世界を“ゼロクリア”にとらえて自分の頭で考える、ということが分かったような気がします。いかに自分が世間一般の価値観を無自覚に受け入れてきているか…。


そうでしょう? 日本の教育は特に戦後から「黙って働けばいい」という価値観を植えつけてきた。「アメリカ」という理想的なモデルがあるんだから、それをキャッチアップすればいいんだと。学校だけではなく、社会においても「とにかく黙って働き続けることが尊い」というキャッチアップ型経済にふさわしい社会構造があった。いまの日本は、まだそれを惰性で引き継いだままなんですね。

でも今や日本は「課題先進国」です。ゼロクリアな状態から自分の頭で考えない限り、未来は開けません。例えば人材採用にしても、青田買いは高度成長期の人口構造であれば、一つの正しい方法です。僕が日本生命に入ったのは大学を卒業したその日だった。一日も早く働いてくれと。その形は、20世紀後半の日本においては正しかった。

でも今は違う。今の企業に必要なのは、ゼロから自分の頭で考えられる人材です。



だから僕は、青田買いをしている人事担当者は「公金横領罪」で逮捕されたっておかしくないと思うんです。大学には2兆円もの税金が入っています。なぜか?学生にゼロから考える能力を鍛え、一生懸命勉強してほしいからです。それを青田買いという制度が反故にしてしまっている。大学の先生が、企業の人事担当者に「学生をゼミに返してください」と、そんなお願いをさせる国の企業の株価が上がるはずがないんです。

大学は勉強するところだから、企業の研究なんてどうでもいい。とにかく、自分の好きなことを徹底的に勉強する。卒業したら、ゆっくり1年くらいかけて世界を放浪したり、NPOに参加したり、いろんな経験をしてから企業に入ればいい。

自分の目で世界を見たら、大企業に就職することが本当に重要なのかが分かるのではないでしょうか。

ある大学の先生も嘆いていました。8000社から求人がくるのに、学生たちはその上位1000社にしかいかない。残りの7000社にこそ明日のソニーや明日のホンダがあるのに、宝を捨ててしまっている、と。

いつ調査をやってもトップ10はメガバンク。 大学まで社長がわざわざやってきて「君が欲しい、ウチに来てくれ」というような小さな企業になぜ飛び込まないんだ、と。

どちらが正しいかは、過去10年の株価を見れば分かりますよね。

(つづく)
マニフェストなき組織に明日はない ―ライフネット生命社長 出口治明の仕事論[3]はこちら


編集 = CAREER HACK


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