2012.12.05
マニフェストなき組織に明日はない ―ライフネット生命社長 出口治明の仕事論[3]

マニフェストなき組織に明日はない ―ライフネット生命社長 出口治明の仕事論[3]

ライフネット生命 出口治明社長は「リーダーの資質」を、どう定義しているのだろうか。リーダーは完全でなくてもいい、という出口社長。だが、変わることのない“旗印=マニフェスト”を掲げることだけは“絶対”だという。その真意とは?

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リーダーが果たすべき役割とダイバーシティ。

― 出口さんは、企業あるいは組織を率いるリーダーの器とはどのようなものだと考えておられますか?


僕は「世界経営計画のサブシステム」と言っているのですが、要するに、“この世界を正しく理解し、その何を変えたいと考え、そのために自分に何が出来るか”ということ。それをはっきりと認識している人だと思います。言い換えるならば、単純に「強い想いを持っている人」と言ってもいい。そこに尽きます。

あなたが何らかのプロジェクトチームにアサインされたとして、チームのトップが「本当はこんなことやりたくないけど、社長に抵抗したらクビになるし仕方なく…」と言いながらやっている人だったら、部下としてやる気が出ますか?

どういう人だったらついていくでしょう?

「苦しいけど、この半年でこれだけはやるぞ」「それをやり遂げることにはこんな価値がある」

そうやって、きちんと語れる人についていきたいはずです。

人間は感情の動物でもあります。そのプロジェクトを、「世界経営計画のサブシステム」としてどれだけクリアに描けるか。世界をどう理解し、何を変えたいと考え、そのためにこのチームに何が出来るのか。それをビシッと定義してくれる人についていきたいと感じるものです。

もちろん、想いさえあれば万事うまくいくという話ではありません。その想いを伝えて共感させる力も必要だし、“旅”の仲間を集めて最後まで引っ張っていく統率力も必要です。統率力というのは「俺についてこい!」という一方的なものではなく、“コミュニケーション”のスキルです。

プロジェクトを導くにはこの3つが必要ですが、人間なんてみんなちゃらんぽらんです。3つを兼ね備えた人間なんてほとんどいないと思っていい。足りないものはチームで補えばいいんです。ただ、「想い」だけは誰にも補えない。それだけは絶対にリーダーが持っていなくちゃいけません。



― そこでいくと、自分に欠けているものが何なのかを知っていることがリーダーの条件と言えますか?


いや、自分が知らなければ周囲の人に指摘してもらえばいい。そのためのダイバーシティです。うちのIPOを仕切った人間で企画部長の堅田という者がいるのですが、彼は32歳。僕が64歳だから、ちょうど半分違います。彼は会議が終わると僕のところにやってきて、

「出口さん、さっきの言い方はなんですか」「あんな言い方されるとみんなやる気をなくします」「次回からは気をつけてください」

と、こう来るんです。

これが50代の人間だったら、そうはいかないでしょう。まず「今晩飲みましょう」とくる。アルコールも回ってきて、頃合いを見計らってようやく「ちょっと失礼なことを申し上げていいですか」と。そうやってお互いに気を使うわけです。同じ企業に同時期に青田買いされて、同じようにキャリアを重ねてきた50~60代のおじさんばかりでやってると、気をつかって言いたいことも言えない。裸の王様を見ても、誰も裸だとは言えないんです。

だからこそ、性別も国籍も年齢も、垣根を取っ払うのが大事。ボードメンバーにしろ社員にしろ、ダイバーシティを徹底して多様な人材で組織を構成すれば、「あの王様は裸だよ」と言える子どもがたくさん出てくるんですよ。

リーダーの掲げる「旗印」が、多様な人材を一つの組織にする。

― 多様な考え方の人材をまとめあげるのは難しくありませんか?


それはマニフェスト、いわゆる憲法があれば問題ありません。この会社をどういう会社にしたいのか、トップの強い想いを示して「この旗に集まれ」という、その「旗」さえあれば簡単にまとめられます。

欧米の会社だとボードメンバーがそれぞれ国籍の違う人で構成されていることが珍しくありません。なぜまとまるのか? ミッションやコアバリュー、ゴールが明確に定められているからです。


― 「我々は何のために仕事をしているのか」ということですね。とすると、それを説き続けるのはリーダーの役割でしょうか?


説き続けなくても、書いてあればいい。


― 日々の仕事の中でミッションを見失ったりすることもあるのでは?


それは書いてないからですよ。書いてあればいつでも戻って見直せる。



― 「書いてある」という状態が重要だと?


ええ、そうです。書いてあることは誰でもチェックすることができる。書いてなかったら、本当の意味を社長に聞かなきゃいけないと、そういう手間がかかるでしょう? そうすると会社がブレます。

人間の歴史を見ても、慣習法の時代から成文法の時代に移っている。書いてなければ、法律なんて誰も分かりませんよ。逆に書いてあれば、その会社が何を旗印にしているのか、読めば分かるわけです。あとは旗に書いてある目標を達成するために、どうやれば合理的でみんなが楽しく仕事できるか、数字・ファクト・ロジックで考えて議論するだけです。

ライフネット生命に関しても、明確に憲法としてのマニフェストを定めています。このマニフェストがイヤな人はそもそもうちには来ませんから、まとめるのは難しいことではありません。


― とはいえ現実的な話、途中で疑問を感じたりする人が出てきてもおかしくないのでは?


どうなんでしょう? 社内で議論が紛糾したときなんかは、「じゃあもう一度マニフェストを読んでみよう」と。


― マニフェストが実際に現場で“使われている”と?


もちろん。使われなかったら、それはもはや法ではありません。使われないものは単なる飾りで、何の意味もない。

これはもともと、僕と岩瀬が2人で徹底的に議論して「こういう会社を作りたいね」と紡いだ想いを、プロのコピーライターの方にまとめてもらったものです。会社を立ち上げる前に、まずマニフェストを作ったわけです。旗印がなければ、人は集められません。



― その旗は、不変のものなのですか?それとも、状況に応じて変わっていくものなのでしょうか?


旗が変わっては旅を続けられません。南極に行こうということで出発して、途中で「嵐がきたから北極にしよう」と言ったら、みんな帰るよね(笑)

国であっても、憲法なんてそうそう変わるものじゃない。ころころ変わるものは旗なんかじゃないです。逆に言えば、変わらない旗と年々の経営計画があれば十分。


― その変わらない旗を掲げられる人が、組織のトップの器と言えるのかもしれませんね。一方で、いまWEBサービス一つで起業しているスタートアップの中には、とにかく試行錯誤しながら前に進んでいるという会社も多いように思います。
ある意味、旗は前に進みながら形作られていくものでもあるのでは、とも思えるのですが…?

あり得ないと思います。会社を作りたいなと思いながら走り出しているうちに、やっぱり旗が必要だと思って作るというのは、現象としては十分理解できるし、現実にそういう会社があっても構わないと思います。

でも僕は、「何をしたいか」という想いがあって、人が集まり、旅がスタートするというのが普通の考えだと思う。

旅を始めてから「俺たちは南極を目指してるんだっけ?北極だっけ?」って議論して、結果的に北極に行くための旗を掲げるのが間違いだとは思いませんが、人間の歴史の中でみると極めて少ないケース。というより、そういう組織体は得てして長続きしないし、大きい国にはなりません。


― なるほど。これは起業を考えている方にも、企業の中で何らかのプロジェクトに携わっている方にもすごく参考になるお話ですね。最後に、ひとつだけ…。お話を伺っていて、出口さんの歴史への造詣の深さに感銘をうけました。その中でも、最も尊敬する人物とは?


「クビライ・カン」(フビライ)ですね。理由は“ダイバーシティ”です。どんな民族であれ宗教であれ思想であれ、役に立つ人・役に立つものは、使ったほうが世の中のためになる、という彼の考え方は本当に素晴らしい。


― クビライとの出会いは?


もちろん書籍です。興味があれば、ぜひ杉山正明先生の本を読んでみてください。非常に面白い先生です。Amazonで検索したらたくさん出てくると思うので、手始めに薄くて面白そうな本を。


― ぜひ読んでみます。改めて、今日はありがとうございました!



(おわり)


編集 = CAREER HACK


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