「エンジニアとして食べていくなら、皆がやりたがらないことをやるべし」と語る一方で、「やりたいことをやったほうが絶対に良い」とも話す片桐氏。その真意はどこにあるのか。『pixiv』で新しいSNSのカタチを切り拓いた片桐氏だからこそ語れる、エンジニアのキャリア論、後編。
▼インタビュー第1回はこちら
エンジニアよ、技術以外でもオタクになれ―pixiv片桐孝憲のキャリア論[1]
― オタク性の追求、という観点から離れて、改めて伺います。これからのエンジニアは、どんな会社や組織に身を置くのが良いとお考えですか?
まぁ当たり前の話になってしまうんですけど、エンジニアの身の振り方って、ものすごく簡単に言ってしまえば大きく分けて2つぐらいしかないと思うんです。
ひとつは、プログラミングなどの専門スキルを極限まで高めるやり方。もうひとつは、プログラミングといった技術を、どうやってビジネスやサービスに変えられるか考えるやり方。
で、簡単なのは、圧倒的に後者なわけです。
― そうなんですか?
もうそれは絶対的にそうですよ。専門分野を極めるのはものすごく大変です。皆そっちのほうが好きだし、だからこそ競争が激しい。その中で、バリューが出せるほどの存在になるというのはめちゃくちゃ難しいです。
一方で、サービスを収益化するのとかって、皆やりたくないことなんですよね。
― (笑)片桐さんもそうですか?
正直に言っちゃうとそうですよ(笑)やりたいことの実現と、収益化とを両立させるのは大変ですからね。でもですよ、きちんとしたサービスをつくって運用していくには当然ながら必要なわけです。
100%好きなことだけをやってバリューを出すなんてことは、許されるのであれば誰でもできると思います。人がやりたがらないことをやってバリューを出すからこそ、存在価値が示せるっていうのはありますよね。
しかも、皆その必要性を分かっている割には、やっぱり“やらない人”が多いんですよ。だからこそ、“やる人”には価値があるというか。
この間、ある有名な原型師の方と話す機会があったんですが、その人も
「やりたい仕事で100%の力を発揮できる人はいくらでもいる」「やりたくないことでバリューを出せる人はなかなかいない」
っておっしゃってました。
そういうことを分かった上で、収益化とかマネジメントとか、どっちかというとやりたくないこともできるようになっていければ、どこに身を置くにしても食っていく力にはなるでしょうね。
― それはあらゆる職種に共通した真理かもしれませんね。ちなみに、“やりたくないことでバリューを出す”というとき、どんなことを意識して取り組めばいいんでしょう?たとえば片桐さんの場合はいかがですか?
僕の場合は、そもそも会社を作ろうと思った動機が「自分の好きな人たちと一緒に働きたい」ということだったんです。その気持ちがすごく強いので、“やりたくないこと”に勝っちゃうというか。
たとえば営業活動とかも、大変な仕事じゃないですか。でも、怒られたりアタマを下げたりすることの大変さよりも、それによって収益性を確保できて、好きな人たちと一緒にこれからも働いていけることのほうが大事なんですよね。だからできてしまう。
― 片桐さんにとっては、誰と一緒に働くか、ということが重要なんですね。
そうなんです。ちょっと話が逸れるんですけど、ピクシブでは、たとえば「iPhoneアプリを作りたいから、作れる人を採用しよう」ということはしないんです。
もちろん、作れる人がいたら良いなって探すことはあるんですけど、一緒に働きたいと思う人じゃなかったら、そのスキルがあったとしても無理に採用はしない。「ま、しょうがないか」みたいな感じで諦めます。
それでもどうしてもアプリを開発したいと思ったら、既存社員の誰かが頑張って勉強して作る(笑)目的ありきじゃなくて、人ありきなんですよね。
ついさっき、「やりたくないことでバリューを出すべし」みたいなことを言っておきながらアレなんですけど…基本的には、やりたいことをやったほうが絶対的にバリューが出せる。
だから、採用だけじゃなくて事業においても、目的ありきではなくて、人ありき。その人がやりたいことを楽しんでやってもらいたい、というのがあります。
「やりたくないことをやってバリューを出す」みたいな話って、一個人で食っていくことを考えればその通りなんですけど、組織の良い所って、自分がやりたくないことを誰かがやってくれる点じゃないですか。
自分にとってはイヤなことでも、他の人にとっては凄く好きなことだったりしますよね。
僕なんかも、ホントは営業とか超苦手なんですけど、他の人がほとんどやってくれます(笑)
だから自分のやりたいことは100%全力でやって、そうでないことはまた別の人が全力でやる、と。会社の良い所ってそこですよね。
― 確かにそうですね。では最後に、エンジニアが今後のキャリアを考える上でのヒントのようなものがあれば、一言いただきたいのですが。
世の中の多くのエンジニアは、会社に属していると思いますし、転職などをすることになっても、やっぱりなんらかの組織に属するケースが多いと思います。
なので、自分のやりたいと思うことがいかに組織のカタチにフィットするかどうか。そこに所属している人たちの中で自分がどう価値を出せそうか、という点も考えつつ会社選びをすると、いいんじゃないでしょうか。
― まとめていただき、ありがとうございます。ちなみにピクシブでは、エンジニアの方々が「こういうことやりたい」とか発案されることって多いんですか?
いやもう、ハンパないですよ。そればっかりといっても過言ではないです。指示なんか出さなくても、勝手にサービスが良くなってたりしますからね。
― へぇ!それは興味深いお話ですね。改めて、ぜひ聞かせてください。ひとまずはここまで、ありがとうございました!
ここで片桐さんによるエンジニアのキャリア論は終了である。
だがご覧いただいたとおり、「エンジニアから主体的な意見が次々と出てくる」というエピソードをきっかけに、インタビューは『組織論』ともいうべきテーマに入っていく。
▼ピクシブ代表片桐さんの『組織論』
仕組みで変えるな、フンイキで変えろ―pixiv片桐流 社員が活きる組織の作り方[1]
編集 = CAREER HACK
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