2013.02.13
テクノロジーは知育をいかに変えるか?―LaunchPadを制したスマートエデュケーションの野望[1]

テクノロジーは知育をいかに変えるか?―LaunchPadを制したスマートエデュケーションの野望[1]

IVS Launch Padで優勝し、注目を集める知育アプリベンチャー《スマートエデュケーション》。アプリの累計ダウンロード数はわずか1年半で250万を突破。AppStoreの教育カテゴリーでも常に上位にランクインしている。この短期間で、彼らはいかにこの地位を確立したのか?代表の池谷氏を直撃した。

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テクノロジーで「知育」を変える。


タブレットやスマートフォンの普及とテクノロジーの進化によって、今、“教育”にもイノベーションが起こりつつある。特に革新の可能性が大きいのは「幼児教育=知育」の分野だ。

その「知育」の市場をリードしているのがスマートエデュケーション。サイバーエージェントグループ出身者が立ち上げた、“知育アプリ”開発ベンチャーある。アプリの累計ダウンロード数は、わずか1年半で250万を突破。先日の《IVS 2012 Fall Kyoto LaunchPad》での優勝をご記憶の方も多いだろう。

果たして彼らは、いかにしてスタートアップを軌道に乗せていったのか。スマートエデュケーション代表の池谷大吾氏に話を伺った。

スマートフォン・タブレットにしかできない表現を。

― 英会話や脳トレなど大人向けの教育アプリは多いですが、幼児教育にフォーカスしたものは珍しいですよね。目をつけたきっかけとは?


iPhoneのパスワードを入れるロック画面ってあるじゃないですか?あの画面を、うちの子どもがいじって遊んでいたんですね。

指で押すと光るんですけど、これがどうも面白いらしく、画面に出てくる数字を何度も連打するんです。



驚いたのは、そうして遊んでいるうちに、指紋の跡をなぞってパスワードを解除してしまったこと。単なるパスワード画面だと思っていたものが、子どもにとっては“コンテンツ”として成立するんだとびっくりしちゃって。

字が読めない子どもでも、直感的に操作して遊べる。スマートフォンやタブレットって、ITリテラシーがそれほど高くない幼児や高齢者に向いているデバイスなんだ、そう思ったのがきっかけです。

この先、ガラケーが衰退していくことも目に見えていましたし、幼児向けにアプリが作れないかとマーケティングをはじめました。


― マーケットとしても、狙い目だったのでしょうか?


そうですね。幼児を対象としたアプリはいくつかあったのですが、クオリティが高いと思えるものは、決して多くはありませんでした。例えば絵本のアプリでも、紙の絵本をPDFにしただけのものとかね。

これでは、なかなか売れませんよ。リアルな紙の絵本を読んだほうが楽しいんだから。タブレットやスマートフォンで読む“意味”がないんです。



― タブレットやスマートフォンで読む“意味”と言いますと?


タブレットやスマートフォンならではの表現があるということ。たとえば、そのひとつは“インタラクティブ”だと思います。

紙の絵本の場合、いくら触っても何も反応しませんけど、アプリなら絵をタップして「光る」「音がでる」「動く」とできますよね。

子どもって、とにかくコミュニケーションが大好き。自分が起こしたアクションに反応が返ってくると、それだけで楽しくなって遊んでくれます。


― “電子書籍”ともまた違うモノですよね?


おっしゃる通りで、現在の電子書籍のUIの多くは、従来の「紙」に近づけようとするものです。紙のような質感のテクスチャ上に活字を表示させたり、ページをめくるような動きをつけたり。

こういった発想で生まれる電子書籍と僕らのアプリとは、そもそもスタート地点が違うのかもしれません。僕らの場合は、紙の本に近づけようとするのではなく、すべてをスマートフォンやタブレットに最適化させて、新しい“おもちゃ”をイチからつくるという発想でやっています。

たとえばUIにしても、社内でデザイナーとよく話すのは“立体的”にしていこう、ということ。

物体としてのタブレットはただの板ですし、画面も平面ですから、単に紙のグラフィックを焼き写すだけでは、“奥行き”がないものになってしまいます。

だから、アニメーションが引っ込んだり飛び出したり、UIでうまく“空間”を作り、“奥行き”を出してあげないとダメなんです。

ターゲットは「親」。ママやパパにこそ共感してもらう。

― アプリのタイトルに「おやこで~」と付いているものが多いですよね。


そうですね、“親子で一緒に遊んでもらう”ことをコンセプトにしています。

《おやこでリズムえほん》では、プレイ前の説明画面で、“抱っこして遊んでほしい”というお願いをしているくらいです。



プレイ画面では楽器が5つ並ぶのですが、上2つを親が叩いて、下3つを子どもが叩く。こんなふうに、親子で一緒に遊ぶためのゲームデザインをしています。

僕自身、自分の子どもになかなか相手にしてもらえないことが多かったのですが、これを見せたら一発で膝に乗ってくれました(笑)

アプリを作るに当たって、さまざまな教育法をリサーチして分かったのは、一番大事なことは「コミュニケーション」だということ。

情報を受動的にインプットするだけでは、アウトプット能力は身につきません。“一緒に”遊ぶことを通じて、“意思を伝える”ことを覚えていく。このポイントが大事なんだと思います。



― そうそう、スマートエデュケーションのアプリって、大人がやっても結構楽しめるんですよね。意外と難しくって(笑)


そうそう!僕らは「親が背中を見せなくてどうするんだ」と思っていて。子どものお手本として、まずパパやママにゲームをクリアしてみせてほしいんです。そうすれば、子どもにやり方を教えてあげられますよね。


― 一方で、子どもにゲームをやらせたくない、という声もありますよね。


そうなんですよね。それって何か根拠があって言ってるんでしょうか。なぜ、子どもにゲームをやらせたくないんでしょう?…分かります?


― うーん…なぜでしょうか?


理由は一つで、“共感できないから” だと思うんです。僕もそうなのですが、自分が知らないこと、分かっていないことは自分の子どもにやって欲しくないんですよ。

逆に、親が好きなものだったら、どんどん子どもにやらせたいと思うわけです。だから、知育アプリは、まずパパ・ママに共感してもらわないといけないんです。

つまらない箇所がひとつもない。全部を“おもちゃ”にする発想。

― 最近、知育系のアプリも増えつつありますが、スマートエデュケーションならではの、プロダクトの強みとは?


“全部がおもちゃになっている”というところですかね。

IVS LaunchPadで優勝した《みんなでつなげっと》でいえば、メニューボタンやカードの飛び出し方を見てほしいんですけど…



― おぉ!こちらに向かってくる感じがしますね。


この動きに落ち着くまでに、じつは何週間もの時間をかけているんです。カードが立体的に飛び出てくる感じを出したくて、それこそ何十枚ものイラストをつかって表現しています。

もうひとつ。《おやこでリズムえほん》では、楽器の絵をタップしたときに、その絵がフワッと持ちあがるような感じで微妙に動くようにしているんですけど…


この動きを出すのに、1ヶ月かかりました(笑)

こんなふうに、メニューボタンから楽器の動き、ローディング画面でさえ、全てに“おもちゃ”の要素を入れるようにしています。

僕らが理想としているのは、ディズニーランド。ディズニーランドって、アトラクションはもちろんですが、並んでいる待ち時間も楽しいですよね。いろんなところにミッキーのマークが隠れていたり、たくさんの仕掛けがあって飽きることがない。

子どもは純粋で素直だから、つまらなければすぐに飽きます。だからこそ、“つまらないところが一つもない”ものを目指さないといけない。


― 技術的にもかなり高いレベルが要求されそうですね…。


正直、エンジニア泣かせだと思います。ものすごい容量のアニメーションがサクサク動かないといけないし、かつパフォーマンスを落とすわけにはいかない。

でも、やります。当たり前ですが、本物のおもちゃだったら、途中で動作がもたついたり、フリーズしたりはしないですし、通信環境がないところだって遊べます。

リアルで存在しているおもちゃをライバルとする以上、“インターネット”の存在を意識させないようにしなければいけません。

ターゲットはITリテラシーが高くない子どもやお母さん。分かりやすくて、いつでも気軽に遊んでもらえるようにしたいんです。


(つづく)
▼インタビュー第2回はこちら
“データ主義×マーケティング発想”で生まれる知育アプリ―LaunchPad優勝チームの開発術[2]


編集 = CAREER HACK


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