「知育アプリ」という市場を開拓し、マネタイズでも成功しているスマートエデュケーション。高い収益性が注目され増資も決定、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長している彼らだが、なぜヒットを飛ばし続けることができるのか?代表の池谷氏が語る、徹底した“データ主義”と“マーケティング発想”とは?
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テクノロジーは知育をいかに変えるか?―LaunchPadを制したスマートエデュケーションの野望[1] から読む
― スマートエデュケーションはマネタイズでも成功していますよね。
おかげさまで増資も決まって、業績は好調です。可愛らしいデザインのアプリですが、ビジネスはあくまで冷静にみています。
ビジネスモデルとしては、フリーミアムモデル。新しい「絵本」や「曲」といった追加コンテンツの販売で、マネタイズしています。
― コンテンツを継続して買ってもらうコツはあるのでしょうか?
極めて当たり前のことですが、知育アプリなので、子どもにウケるコンテンツがあるということですね。
『森のくまさん』のような、著作権フリーの曲を使ったアプリも市場には多いですが、僕らは違います。
『アンパンマン』『トトロ』『プリキュア』いまの子どもたちが好きなコンテンツが揃っていないと、親のほうも「買ってあげよう」とは思えないですよね。
《おやこでリズムえほん》の一発目のコンテンツで『アンパンマンのマーチ』を出したのも、ひとえに“子どもたちに振り向いてほしかったから”です。
― 演奏が本格的で驚きました。
実際に本物の楽器で演奏したものをレコーディングしていますから、“音”のクオリティには自信がありますね。
現在はトータル250曲以上提供していますが、スタジオをお持ちの製作会社さんと提携して、ぜんぶ原盤からつくっています。
現状、音質にこだわっていないアプリが比較的多いので、質の高いモノを作れば勝てるだろうと戦略的にやっている部分でもありますが、それ以上に、情報をどんどんインプットする幼児期だからこそやっぱり“いい音”を聴かせたいじゃないですか。実際、そこに共感してくださるユーザーさんも多いですね。
― スマートエデュケーションという“チーム”の強みは何でしょう?
僕らはとにかく“データ”が大好きなんです。ひたすらデータをとり、分析・検証しているところが強みだと思っています。
例えば、アプリで使うイラストを選ぶ際にもFacebookを通じてお母さん50人に協力してもらったり。「このアプリ欲しいですか?」「いくらなら買いますか?」と、かなり入念なヒアリングをやっています。
スタートアップには余力なんてありません。だから、時間をロスすることが何より痛い。新しいコンテンツをローンチしても、データを見て1週間で引っ込めることもあります。で、体力を温存して、次のチャンスに活かす。素早く判断して勝てるところを探さないと、たちまち火の車です。
― どんなデータを重視されるのでしょうか?
アプリが起動された時間、読了してもらえた割合、アプリが不具合を起こした箇所…本当に細かく、さまざまです。ソーシャルゲームと同じく、知育アプリもローンチ後の改善が勝負。データをもとに、どんどんブラッシュアップしていく感じです。
《おやこでスマほん》で提供している『白雪姫』も、実は、現在のバーションは初版で出したものとはかなり内容が変わっています。どこで本が閉じられているのか分析し、細かく手を打っているからです。
途中で離脱されてしまっている原因はさまざまで、動作が重くなっていることもあるし、キャラクターやアイテムのアクションがユーザーに響いていないということもあります。
データをもとに、アプリのどこに問題点があるのかを抽出できれば、エンジニアやデザイナーに指示を出す際にも根拠が提示できて、何をどう変えたほうがいいのか、議論が先に進みますよね。
やはり、重要なのはデータです。そもそも“ユーザーが離れている”というデータがなければ、手の打ちようもないわけですから。
― 国内の知育カテゴリーでは、かなりのシェアを獲得されているかと思います。今後はどういったマーケットで勝負をしていこうとお考えですか?
まず「北米」と「韓国」は知育分野のマーケットが成熟しているので、こういった大きなマーケットを狙っていこうと思っています。
知育ビジネスの良さって、ベースにある文化が世界共通なところなんですよね。どんな国でも、子どもに本を読んであげるし、歌をうたってあげる。国内に閉じこもっていても、少子化で市場の大きな拡大は難しいですから、世界で勝負をしていきます。
― 海外で勝負していく上での具体的な戦略があれば教えてください。
昨年の段階で、iOSを中心に英語対応は終わっていて、世界各国でダウンロードできる状態ではあるんですが…でも、それだけじゃ売れないんですよ。
各国ごとにどのコンテンツが売れているかデータを分析していく中で、おもしろいことが分かりました。
日本では平面的なデザインが好まれるけど、北米では立体的なほうがウケるんです。ピクサーの映画のような。
実際、海外のクリエイターと組んで作ったアプリをリリースすると、やっぱりそのほうが売れるんですよね。
単に日本でつくったものを翻訳するだけではなく、地域にあわせたクリエイティブの調整が必要だと考えています。
― 新しいアプリ、新しいサービスを展開するご予定は?
いま考えているのは、家族の間をつなぐハブになるような、新しいコミュニケーションツールを提供していきたいと思っています。
おじいちゃんや、おばあちゃん、もちろんはじめて親になる人もそうですけど、子どもとの距離を縮める手助けができたらいいなと。
― 具体的には、どういったものでしょうか?
僕らは“ソーシャルスタディ”と呼んでいるのですが、離れて暮らしているおじいちゃんも、おばあちゃんも、みんなで一緒に遊べるソーシャルゲームを考えています。
家族でわいわい話しながら「人生ゲーム」で遊ぶ…なんて時代もありましたが、そういった“家族同士のコミュニケーションの場”を作りたいんです。
たとえば、家族みんなで“牧場”をつくるゲームなど、面白いかもしれません。おとうさんが野菜の種をまいて、おじいちゃんが水をあげて、子どもが収穫して…よくある牧場系アプリかと思われるかもしれないけど、違うのは“家族みんなで遊ぶ”というところ。
仕事が忙しくてなかなか“イクメン”を実践できないお父さんも、こんなゲームがあれば、子どもと一緒に遊べますよね。
ソーシャルなど最近のWEBサービスのトレンドを見ていても、みんなコミュニケーションが好きなんだなあと思うんです。その目線を、もっと自分の子どもに向けられるようにしたい。
ソーシャルゲームを悪者扱いする報道もありましたが、別にゲームそのものが悪いわけじゃないですよね。親の知らないところで子どもが多額の課金をしたり、見知らぬ人と交流する事が問題というだけ。家族みんなで楽しめるゲームであれば、きっと楽しく、有意義なはずなんです。ソーシャルゲームを通じて、家族の仲がどんどん深まっていく―そんな、プラスの意味での社会現象を巻き起こすのが野望ですね。
(つづく)
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編集 = 松尾彰大
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