2013.02.18
LaunchPad優勝チームは、いかにして優秀な人材を集めたか?―新時代のチームビルディング[3]

LaunchPad優勝チームは、いかにして優秀な人材を集めたか?―新時代のチームビルディング[3]

どうすれば優秀なエンジニアを採用できるのか―。特に資金・パイプがないチームにとっては、大きな悩みの種だろう。この問題をクリアし、LaunchPadの優勝チームになったスマートエデュケーション。代表池谷氏のインタビュー最終回では独自のチームビルディング術を伺った。

0 0 8 0

▼インタビュー第1回はこちら
テクノロジーは知育をいかに変えるか?―LaunchPadを制したスマートエデュケーションの野望[1]  から読む

▼インタビュー第2回はこちら
“データ主義×マーケティング発想”で生まれる知育アプリ―LaunchPad優勝チームの開発術[2]  から読む

オフィスを“無料のオープンワークスペース”にしてしまう。

― 不躾な質問になってしまいますが、スタートアップの場合、いくら良いアイデアがあったとしても、それを実現できるエンジニアがいないというケースも少なくありませんよね。大手WEB系企業ですらエンジニア採用に苦戦している中、一体どんな方法でエンジニアを採用しているのでしょう?


仰るとおりで、僕らもはじめは全くといっていいほど知名度がなく、採用もなかなか上手くいきませんでした。

それで「クラウドワークス」等を通じてフリーのエンジニアの方々に仕事をお願いするようにしていたのですが、そこでたどり着いた結論が“正社員の雇用だけにこだわらない”ということ。

フリーのエンジニアさんと働くようになって、彼らには自由にオフィスに出入りしてもらっていたんですね。その人数が増えてきたところで、会社を“オープンワークスペース”にすることにしたんです。



今、“シェアオフィス”が流行っていますよね。でも、フリーのエンジニアにとって、その使用料は決して安くはない。

だったら、僕らのオフィスを開放しよう、と。もちろん使用料は無料で、Wi-Fi使い放題。あと、お茶も無料です(笑)

1回でも僕らの仕事を手伝ってくれた人なら誰でも使えるようになっていて、今オフィスにいる人も半分くらいはフリーのエンジニアですね。

僕らにとってはプロジェクトを手伝ってほしい時にいつでも気軽に声を掛けられるメリットがありますし、エンジニアさんにとっては情報交換の場にもなりますし。実際の社員は10人なんですけど、フリーの方を含めると35人くらいでプロダクトをつくっています。


― 驚きました。そんな方法があったとは…。雇用形態に縛られていない、というか。


もちろん社員としての採用も考えてはいます。ただ、働き方を限りなく自由にしているので、自社雇用かフリーかの違いは、そこまで大きな問題ではなくなってきています。

重視するのは、僕らの想いに共感してもらうこと。その上で、雇用形態に関わらず、長く一緒に働いてもらいたいと考えています。

WEB業界の仕事って、かなりのハードワークじゃないですか。でも、「できる限り、子どもと一緒にいたい。家で働けるならやりたい」という方もいる。だったら、それでいいのでお願いします、と。

“家族との時間を大切にしたい”、これだって大事な価値観ですよね。就業規則とワークスタイルが合わないというだけで優秀な人材を逃すのは、かなりもったいないですよ。

そういう人って、「家で仕事がしたい」と言うだけあってすごく優秀なんです。フリーとして食べていける能力があるということですから。

こういった経緯もあって、社員であってもどこで仕事をしてもOK。出社しない日があっても構いません。何かあった時にだけ連絡が取れれば、プロジェクトの途中で旅行に行ってもいいですし。

結婚して子どもがいるメンバーも多いんですけど、家でデモを作って、すぐに自分の子どもに見せたりもできる。そこから新たな発見があるかもしれませんよね。

一流のエンジニアが夢中になるアプリ開発。

― ただ、自由な働き方を推奨するだけで優秀なエンジニアが集まるわけではないですよね。一体何に惹きつけられるのでしょうか?


当然の話ですけど、優秀な人ほど新しい技術に貪欲です。最先端の技術が試せる環境であるというのは、モチベーションの一つになっているかもしれません。

最近ではハイクオリティなソーシャルゲームも出てきていますが、技術レベルでいったら、僕らのアプリも決して引けをとってはいないと思います。

僕らはAndroidアプリの開発にも力を入れているのですが、iOSとAndroidをワンソースで開発できるようにしたのも、かなり早いほうだったんじゃないかな。Androidは高いパフォーマンスで遊べるアプリがまだまだ少ないので、そういう意味でも、技術的に最先端に近いところをいっていると思いますね。

それから、僕らの場合はエンジニアさんに無理難題をお願いすることも多いんです。というのも、僕らのターゲットユーザーである子どもやお母さんたちって、ITリテラシーが高くない。特に子どもの場合、ちょっと使いづらかったりストレスがあったりすると、すぐに遊ばなくなってしまいますからね。だから、「通信環境がなくても遊べるようにしなければならない」「ローディング画面を極力減らさなければならない」「絶対にアプリが落ちないようにしなくてはならない」と、一般的なアプリ開発以上に、多くの課題を解決していく必要がある。

そういう部分で、エンジニア魂に火がつく人も多いんじゃないかと思います。



― 新しい技術や表現にも挑戦されているのでしょうか?


グラフィックでいえば、今は2Dがメインですが、3D対応の準備も進めているところです。

例えば、「図鑑アプリ」なんて、非常に可能性のある分野だと思いますね。いま、子どもたちに「魚を描いて」というと、ほとんどみんな“左向き”に描く。なぜだか分かりますか?


― …うーん、なぜでしょう…?


図鑑に載っている魚の絵が、どれも“左向き”に描かれているからです。ほとんどの子どもが、“左向き”の魚しか見たことがないわけです。これが3Dで、お腹から・顔から・背中から、いろんな角度で魚を見れるようになったら、子どもの想像力ももっと膨らむんじゃないかと思うんですよね。

北海道の旭山動物園の水族館に、アザラシやペンギンが目の前を泳ぐチューブの仕掛けがあるんですが、ああいうのって、やっぱりすごく良いんです。“ペンギンって飛ぶように泳ぐんだ”という、驚きと発見とワクワクがある。3Dの図鑑なら、そういった“本物”に近い表現ができると思っています。

“起業の想い”でつながれば、チームは上手くいく。

― 少し話を戻しますと、スマートエデュケーションではかなり自由度の高い働き方を認めていると仰いました。それだけ柔軟な組織だと、一方で、メンバーそれぞれの目線がバラバラになったりしませんか?自由度の高い組織を“機能させる”ために意識していることは?


スマートエデュケーションは、サイバーエージェントグループを卒業したメンバーが集まって立ち上げた会社なのですが、みんなもともと仲良しグループだったわけではないんです。びっくりするくらいタイプはバラバラだし、個性的だし。

でも、「世界中の子どもたちの“いきる力”を育てたい」という起業の想いは全員で共有していて、ブレることはありません。

フリーのエンジニアさんはもちろん、外部のデザイン会社やアルバイトさんも含め、プロダクトに関わってくれる全ての人にこの想いを根っこからきちんと伝えるようにしています。

そうすることで、「その想いを実現するために、いま何をすべきか」をそれぞれが考えてくれるようになる。みんなが主体的に動くことで、チームの力が何倍にもなるんですね。

そしてもう一つ、チームを組織する上で重視しているのは、“多様な視点を備えたチームをつくること”。チームの良さって、自分では気づけないことに気づいてくれる人がいることだと思うんです。

採用をする際に意識しているのも、物事に「気づける目」を増やすということ。自分には2個の目があって、日々さまざまな物事を見ているわけですが、自分と同じことに気づけるだけの目なら、新たに迎え入れる必要ありません。タイプの違った“目”の数を増やすことでこそ、チームとして、いろいろな物事に気づけるようになるんです。

自分とまったく違う発想で考えられる人、変わっている人、個性的でアクの強い人…そういった人たちが“プロダクトの意義”という共通のビジョンのもとに集まったチームこそが、理想的なチームなのではないかと思います。


― その考えがあるからこそ、多様な働き方を認める柔軟な組織が成立するわけですね。本日は、貴重なお話をありがとうございました!



(おわり)


編集 = 松尾彰大


特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから