2018.12.14
ズボラ旅、ママリに学ぶ、サービスブランディング

ズボラ旅、ママリに学ぶ、サービスブランディング

CIデザイナー タカヤ・オオタさん、Hotspring社 有川鴻哉さん、コネヒト社 大湯俊介さんが登壇。11月に開催された「コネヒトーク3rd:ここでしか聞けない!ブランド化するサービスの裏側を大公開」の内容をお届けします。

デザイナーは何をデザインすべきか|タカヤ・オオタ

まずUIデザインの価値についてタカヤ・オオタさんが語った。UIデザインの再現性が高くなりつつある今、その価値の変化とは。

実は7年ほど前、創業直後のコネヒト社でデザインをしていました。当時は、UIデザインに関して体系化された情報も多くなく、試行錯誤しながら作るという状況でした。

当時に比べると「これは使いやすいインターフェースだ」という判断も体系化されてきました。いまでは、ドキュメントを読みつつ最新のアプリやWebサービスのデザインを研究することで、標準的なUIデザインを行うハードルは下がっていると思います。

良いサービスやデザインが生まれると、瞬く間に競合サービスや類似サービスが現れます。これはプロダクトとデザインが体系化されたことの象徴だと言えます。取り入れられる速度は以前に比べ、ものすごく速くなっているのではないでしょうか。


[プロフィール]
TKY+N LAB & DESIGN inc.  代表 タカヤ・オオタ氏(トップ写真:中央)
立教大学経営学部卒業後、株式会社monopo、株式会社ペロリのアートディレクタを経て、2017年に独立。PKSHA Technology, polca (CAMPFIRE), LIPS (AppBrew) などスタートアップと協業しアイデンティティ・デザインを行う。

「勝てないと分かってからが勝負」タカヤ・オオタのポジション取り

企業の「顔つき」をつくろう

CIデザインというのは、「企業の顔つきを作る仕事」だと考えています。

「Mind Identity」「Behavior Identity」「Visual Identity」の3つの要素で構成されていて、企業やサービスの意思を表明したり、その振る舞いを定義づける役割を持っています。

「Mind Identity」は、思想をしっかりと定義づけるということ。

Airbnbのロゴは、「Belong Anywhere」つまり、「世界のどこへ行っても、私たちには居場所がありますよ」というメッセージを込めたシンボルなんです。

事業の思想に基づいたシンボルを作り, その後もその価値基準を前提にサービスを展開しています。

CIの構成要素 Mind Identity|タカヤ・オオタさんのスライド

次に「Behavior Identity」について。

Apple Storeの接客と、コンビニの接客って違いますよね。Apple Storeの接客は「Appleらしい」と感じると思います。それは、お客さんに対してどういった振る舞いをするか。会社として規定しているからなんです。

最後に「Visual Identity」は、会社としてどういう装いをするのか、ということです。ロゴやグラフィック、UIデザインなどの外観的特徴を指す。

これら2つの要素もサービスの思想に基づいてデザインが行われます。

CIの構成要素の図|タカヤ・オオタさんのスライド

体系化によってサービスの機能性や使いやすさが均質的に向上すると、サービスを選択する動機はサービスの思想にどれだけ共感できるか?「ブランド」との距離感にすごく寄っていきます。

サービスを使うユーザーが、そのサービスに親和性を感じてくれたり、好感を持ってくれたり。サービス作りと並走してブランディングを進めていくことが必要だと考えています。

思想を体現するのがCIデザイン

なぜそのサービスを作るのか、なぜこれが必要なのか。

デザイナーが後付けで考えるのではなくて、発案者の課題感や使命感といった思想をすくい出す作業こそが、CIデザインだと思っています。

スタートアップには、課題に対して原体験的な動機を持つ人が多く、思想を体現するCI制作との相性がいいんです。

CIの構成要素の図|タカヤ・オオタさんのスライド

たとえば、『LIPS』というサービスのリデザインでは、単にシンボルを作るだけでなく、インターフェースも同時にリデザインをしました。

新しいロゴに基づいて、ブランドとしてどういったトーンがふさわしいか、全体的に一貫した見た目を持たせることを意識しています。

簡単に模倣できない、サービスとしての一貫した思想を反映する。ブランディングを信じて、CIの制作を行なっています。

『ズボラ旅』のブランディング|有川鴻哉

チャットで旅行好きな友だちに相談するように、旅の計画・予約ができるサービス、「ズボラ旅 by こころから」。有川鴻哉さんは「LINE上でサービス展開しているため、デザインで他と差別化を測ることが難しい」と語る。

「ユーザーは新しくてよくわからないサービスに、まるで興味を持っていない。これが現実だと思います」

そこでポイントになるのが、ユーザーとの距離感を縮めることだった。

有川鴻哉さん、タカヤ・オオタさん、大湯俊介さんの写真

有川鴻哉 株式会社Hotspring 代表取締役(写真・左)
1992年生まれ、早稲田大学除籍。女性向けメディア「MERY」を運営していた株式会社ペロリの創業メンバーとして主にデザイン/SEOの領域を管掌。2017年5月に株式会社Hotspringを創業し、2018年5月に「ズボラ旅 by こころから」をリリース。エンジェル投資家としてスタートアップの支援も行なっている。

有川鴻哉が明かす「旅行サービス」での勝算

サービスをつくるとき、まずプレスリリースをつくってみる

意外と驚かれるのですが、サービスを作るとき、機能を追加するとき、まず最初にプレスリリースを作ります。タイトルをつけて、そのサービスや追加する機能を絶対に一言で表す。これができないと、なんだかよくわからない機能ができあがってしまうからです。

自分たちがどんな課題感を持っていて、なぜそのタイミングで機能を追加するのか。ここをしっかりと説明する。自分たちにはサービスや機能がリリースされた未来の世の中が見えていますが、それらはまだ世の中にありません。現実と自分たちが描いている未来とのギャップを埋める。この作業が必要だと思います。

僕の考え方として、ブランディングというのはロゴなど目に見えるものに限らず、「コミュニケーション」をデザインしていくことだと思っています。

特に「ズボラ旅 by こころから」の場合は、UIが普段見慣れたLINEのままです。なので、僕たちのコンセプトやサービスからのメッセージを伝える手段がサービスページしかありません。

ユーザーとの接点が限定されている分、コミュニケーションを取る手段としてプレスリリースやTwitterでの発信を工夫しています。

ズボラ旅の説明スライド

ひとりよがりでは届かない

大事にしているのは、ひとりよがりのコミュニケーションを取らない、ということ。誰に何を伝えて、どんなアクションをして欲しいのか。とにかく考え抜きます。

例えば、「何億円の資金調達をしました!」というタイトルのプレスリリース。これでは、そのお金で社会がどう変わるのかがはっきりとわからない。

お金を集めたという自慢にしかなっておらず、これではユーザーの関心を集めることはできません。「新機能をリリースしました!」というタイトルでその下に使い方が書いてあるものも同様です。

プレスリリースに必要なのは、そのサービスの変化によって自分の生活や社会がどうよくなっていくのか、どう便利になるのか。主観ではなく第三者視点で捉えて、「自分ゴト」に感じられるポイントを語ることで、よりユーザーに届けやすくなります。

失敗もユーザーに尋ねてみよう

大きい会社のTwitterアカウントは、お客様窓口みたいな口調で、当たり障りないコミュニケーションを取りがち。でもサービスの中には絶対に人がいて、作ってる人がどういう気持ちで、何を作ってるのかという事実がありますよね。それを感じ取ってもらえるようなコミュニケーションをしないと、まず興味を持ってもらえません。

また、サービスを開発していて、失敗することは絶対にあると思います。その時に恥ずかしがって自分たちの中で仮説を検証し、次の策を練ったりしがち。でも、それで完結してしまうと、ユーザーは置いてけぼりになってしまいます。

「なんで失敗しちゃったのか教えてくれ!」と素直に問いかけてみる。

人っぽさを出す方が、見ているユーザーも寛容になるし、リアクションをくれる。ユーザーに対して、正直であること。これが大事なのかなと思います。

ズボラ旅の説明スライド

『ママリ』リブランディングの裏側|大湯俊介

3人目に登場したのは、「ママリ」を運営するコネヒト株式会社の大湯俊介さん。

現在、2018年に出産をしたママの3人に1人(※)が会員だという「ママリ」。そのリブランディングの裏側には、すでに多くのユーザーを抱えていたサービスがゆえの苦悩があった。

「ユーザーとの接触頻度を三次元的に担保する。これがミッションを実現するために必要なことだと思っています」

ママリのリブランディングは、1年をかけ、社内リソースの多くを割いて行なわれたという。ユーザーも一緒に次のステップに連れていく。そのプロセスには、サービスとしての成長に繋げるヒントがあった。

※「ママリ」内の子供の誕生日を2018年1月1日~9月30日に設定したユーザー数と、厚生労働省発表「人口動態統計」の2018年1月~9月分の出生数から算出。

有川鴻哉さん、大湯俊介さん、タカヤ・オオタさんの写真

【プロフィール】
大湯俊介 コネヒト株式会社 代表取締役社長 (写真:中央)
1988年生まれ、慶應義塾大学卒。在学中にアメリカ留学を経て帰国後の2012年にコネヒト株式会社を創業。 2014年より、同社にて「人の生活になくてはならないものを作る」というミッションのもと「ママリ」事業を開始。2016年に同社はKDDIにグループ入りし、引続き代表取締役社長を務める。

子育てママを孤独にさせない!スマホ時代の駆け込み寺『ママリ』が愛されるワケ

社内のズレからスタート

ブランド…むずかしいですよね(笑)まず「ママリ」が陥ったのは、サービスが育っているのに、ブランドについて言語化がされていない、という問題でした。

スタッフの人数が増えるにつれて、みんなの「ママリってどんなサービス?」という認識にズレが生じる。それぞれ自分なりに語れはするけど、言葉のトーンが揃わなくなっていたんです。

そうなると、コンテンツや営業の方針や方向性を検討するとき、判断軸がブレるんですよね。そこで、今一度「ママリ」というサービスの使命を考え直そう、とリブランディングプロジェクトがスタートしました。

ユーザーの声で、ブランドの輪郭が明確に

ママリの説明スライド

まずはユーザーや社内に向け「あなたにとってママリとは?」というアンケートを行いました。

コネヒトには元々ユーザーだったり、子育て中だったり、サービスが好きでジョインしてくれた方が多く在籍しています。全従業員を対象にママリについて問う質問をしてみました。

現状のサービスを好きでいてくれている方々、ターゲットであるママたちの声を聞く。そうすることで「ママリ」はどんなサービスとして求められているのかを明らかにしたかったんです。

ママリの説明スライド

とくにアンケートの声でハッとしたのが、「ママ友の代わりのように思っています」という声でした。ユーザーの声を基点に社内で議論を重ね、「ママの一歩を支える」という今のミッションを導き出しました。

私たちが大切にしているのが、あらゆる職種のメンバーが、ユーザーとの接触頻度を担保すること。だから、リブランディング後も、なるべく全員がユーザーインタビューに参加するようにしています。

一番の目的は、ユーザーと触れ合い「このサービスで救われました!」という声を直接聞くこと。ユーザーインタビューというイベント自体が、自分たちの仕事が社会と繋がっている感覚を作り出していると思います。

リブランディングは僕らにとっては、2つの意味があったと感じています。1つ目は、組織内の意思を統一させること。2つ目は、自分たちの使命を改めて理解するいいきっかけになったことです。会社として何かを進めていく時、「思考の焦点が合うようになったよね」話すことがよくあります。

ミッションを達成するための3つの要素。これをサービスのミッションを再定義した際に掲げていました。ただ、社内のメンバーから「3つ目の要素が実現できていない」という声が上がりました。

ブランドミッションを達成するための3つのアプローチ
[ ブランドミッションを達成するための3つのアプローチ ]

外の世界に働きかけて社会を変える、というのは本当に難しいことです。それでも、「ユーザーの声をもとに社会を変える」ことに、本気で挑戦しようと決心しました。

ブランドを定義したことによって、社会に必要だけど、自分たちがまだ実現できていないことが見えてくるようになったんです。ある種「サービスとしての余白」が見えたのかな、と思っています。これを受けて、2018年6月から「変えよう、ママリと」というプロジェクトを立ち上げ、3つ目の「行動したママを受け入れる社会をつくる」に着手しはじめました。

このプロジェクトは現在、あえてお金を稼ぐということとは短絡的に結び付けないようにしています。それでもママリというブランドとしてコミットし、やりきる。この意思決定はリブランディングしたことが後押しになりました。リブランディングを経なければこのプロジェクトはなかったと思います。

デザイン成功の定義。定量目標は設けない

※ここからはパネルディスカッションの様子をお届けします

ブランディングのKPIは永遠のテーマだ。定量化しづらく、不可逆なもの。うまくいかなかったからとやり直しできるものでもない。ブランド施策の指標をどう考えているのか。

タカヤさん:

重要視しているのは、サービスをつくる人たちの思想やサービスコンセプトをきちんと落とし込めているかどうか。数字でKPIを設定する、というのは対外的な指標なのでクライアントと個別に確認しています。

もう1つ、僕が大事にしている指標があります。それは、新しいアイデンティティが、事業の発展に伴って生き続けられるのかということ。

たとえばサービスが成長して広告を打ったり、オフラインに展開することになれば、様々な場面でロゴを使うことになります。ピクセルではなく数メートルの大きさでも成立しなければ、アイデンティティとしての機能を発揮しません。アプリ内に限定するのではなく、人の目に触れる幅が広がっていくことを見据えることが大事だと思っています。

さらに、サービスやブランドのユーザーが変われば、ブランドイメージを刷新しなければいけないこともある。変化が起こっても生き続けるブランドデザインを設計すべきだと思っています。

有川さん:

数字でブランドを評価するってめちゃくちゃ難しいこと。UIが数字に影響することもあるけど、ブランディングを変更したことで数字が大きく変わってしまうのは、逆に良くなかったりすると思います。

ブランディングは未来のスケーラビリティに対する投資。何か新しいものの意思決定をするとき、判断軸として機能するようになったか、など定性的な効果が大事だと思います。

大湯さん:

リブランディングはお二方が語られるように評価がかなり難しい。基本的には絶対成功させることを前提とするという心構えで、どのように成功させるのかを考えることが大事だと思います。

よくある失敗例としては、”社内に浸透しない”、”白け感が出る”。そして、変えたものがプレスリリースなど情報発信したときに違和感があるなど。

そういった穴を先んじて埋めるようにプロセスを構築し、リブランディングを必ず成功させることが大事だと考えています。

プロダクトが先か、ブランドが先か。

海外で成功している例ではUXを研ぎ澄ます、プロダクトドリブンが多いようにみえる。プロダクトが良ければブランドは自然にできてくるものなのか。それともブランディング設計は予めしておくべきなのか。

有川さん:

当然、プロダクトから入るべきだと思います。サービスをつくるときには、”社会がこう変わって欲しい”と思いを込めているはず。サービスが目指す先を社会に伝えていく手段として、ブランドがある。出だしはプロダクトだけでも、ブランドを並行して走らせていくと相乗効果は大きいと考えています。

タカヤさん:

ぼくも並走だと思います。どちらが先になることも難しい。

海外のうまくいっている事例を見ると、ほとんどがプロダクトと並走しながらブランド設計するという視点を持っている。プロダクトを順調に伸ばした上で、ブランディングをうまくやることで、さらに効率よく世の中に伝え、広まることもあります。

大湯さん:

DAY1からブランドを作りきることはできないと思います。なぜならブランドは”届ける先にいる人”ありきだから。でも、初期からブランド設計はしたほうがいい。「ママリ」の場合は初期のブランド設計がサービスの拡大に追いつくことができず、リブランディングの必要性に直面しました。リブランディングは良い副産物もある一方で超大変です(笑)。初期からブランドの骨子を一定設計しておくべきだと伝えたいです。

(おわり)

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