2013.04.24
クラウドソーシングの第一人者、ランサーズ 秋好陽介氏に訊く―「人生の選択肢を増やす、新しい働き方」

クラウドソーシングの第一人者、ランサーズ 秋好陽介氏に訊く―「人生の選択肢を増やす、新しい働き方」

昨今のノマドワーカーブームが象徴するように、多様な働き方への人々の関心は日増しに高くなっている。そんな中、新たなワークスタイルとして存在感を増してきたのがクラウドソーシングだ。業界に先駆けてサービスを立ち上げたランサーズ(株)の秋好陽介さんに、エンジニア・クリエイターの新しい働き方について伺った。

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エンジニア・クリエイターの、これからの働き方。

“WEB/IT/ゲーム業界での幸せなキャリアを考える”というのが、CAREER HACKが掲げる大きなテーマである。

今回は、その大テーマに真正面から向き合うインタビュー。クラウドソーシングがエンジニア・クリエイターに示す、“新しい働き方”について、だ。

お話しを伺うのは、ランサーズ株式会社代表の秋好陽介さん。業界ナンバーワンのクラウドソーシングサービス『Lancers(ランサーズ)』を、2008年という実に早い段階からスタートさせた業界の雄である。



“終身雇用”“固定時間勤務”といった従来型のワークスタイルが崩れていく、と言われるようになって久しいが、いわゆるICTの発達によってそれは急速に現実味を帯びてきている。特に、エンジニア・クリエイターの周辺においてはその傾向は顕著だろう。

会社という枠組み、個人という枠組み、日本という枠組み、世界という枠組み。さまざまなフレームの中で、自身の仕事や働き方を再定義していかなければならない現代、我々はどのように生きていけばよいのだろうか。エンジニアでもある秋好さんと共に、その手がかかりを探ってみた。

震災をきっかけに、意識が変化した。

― ランサーズは、2008年という非常に早い段階からクラウドソーシングサービスを始められていますよね。業界のパイオニアである秋好さんから見て、日本における労働観やワークスタイルの変化、あるいは課題などについて、どんな印象がありますか?


多くの方がすでに感じていらっしゃることだと思うのですが、雇用形態や勤務体系など、日本において長く実施されてきたワークスタイルは、ここ数年で多様化してきていますよね。雇用形態も、必ず正社員雇用というわけではなくなってきていますし、勤務スタイルにしても「9時~18時」というものばかりでもありません。



まず企業の側から考えてみると、全ての労働力を正社員雇用によってまかなう、というのが現実的ではなくなってきている現状があります。経済新興国の台頭だとか、次々に起こる技術革新などによってビジネスモデルの変化が激しくなり、またその進行速度も速い。正規雇用者を多く抱えることはリスクになりえるわけです。

また働く側を見ても、多様な働き方を模索する人が増えていると感じます。特に震災以降はそれが顕著になっている印象です。当時、都心では“帰宅難民”の問題が表出しましたが、それをきっかけに、都心に住み同じ時間に同じ場所に通い続ける、というスタイルに疑問を持った人が少なくなかったのでしょう。“ノマドワーカー”が注目を浴びたりしているのも、そうした変化の象徴だと感じますね。

震災関連でいえば、電力不足というのも、働き方に影響を与えた要因の一つと言えます。平日の電力消費を抑える目的で、工場を持つ大手メーカーなどが土日の稼働に切り替えたわけですが、結果として、工場に勤める人々のワークスタイルは変化している。それまで無条件に前提とされていた常識が見直される…そういう時代になっているんだと思います。テレワークについては、国も推進していますよね。

週3日で、年商800万円。

― どれぐらいの人がランサーズを使っていらっしゃるんですか?


ユーザー数としては現在13万人超ですが、ランサーズだけで会社員並みの年収を実現出来ている人は、今段階では約100人程度ですね。アルバイトレベルの収入を得ている人は1000人ほどです。

トッププレイヤークラスになると、年商800万円といった人もいます。

その方は、地方在住のデザイナーさんなんですが、クライアントとのやり取りはほぼメールのみで完結できています。実働時間を数えると週3日ぐらいだそうですから、物価なども踏まえると、公私ともに充実したスタイルを実現できているんじゃないでしょうか。


― ランサーズだけで年商800万円、というのはすごいですね。


ただ、もちろん良いことばかりではありません。ご承知の通り、仕事が安定的に入ってこない、というリスクがありますよね。

件のデザイナーさんも、ご自身では「人とのコミュニケーションが苦手なのでフリーになった」と冗談交じりに言っていますが、腕の確かさはもちろんのこと、相手に配慮した仕事ぶりだからこそ、依頼が絶えないんですよね。依頼主から指示されていないことでも、その仕事に何が必要かを自分で主体的に考えて提案するんです。そんなふうにバリューを出していかないと、なかなか安定的に仕事を得られない。

さらに、フリーの大変さというのはそれだけじゃありません。たとえば経理処理も自分でやらないといけないし、依頼主への営業活動や価格交渉もあります。仕事が動き始めてしまってから値下げを要求されるだとか、ギャラの未払いということだって起こり得ます。

こういう大変さというのは、会社に所属しているうちは気付かないんですよね。アタマでは分かっているつもりでも、実感すると全然違うと思います。

働き方が増えれば、生き方の選択肢も増える。

― 最近は、会社員が“社畜”と揶揄されることも多いですが、会社組織に所属することで得られるものも少なくないわけですよね。


会社にいることで守られている部分は非常に多いと思いますね。どちらが良くてどちらが悪いというものではなくて、結局はどういう選択をしたいのかという、本人の志向性の問題です。

ただ、『ランサーズ』を通じて仕事を受ければ、先ほど話したようなデメリットはほぼ無くなります。

まず、自ら営業活動する必要はありませんし、経理処理もランサーズ側で行ないます。また、依頼主から我々が先に報酬を預かって、ランサーズからお支払いするので、値下げ要求や未払いの問題も生じません。

ちょっと宣伝みたいになってしまいましたけど(笑)我々としては、フリーランスという働き方を、今よりももっと選択しやすい世の中にしたいと考えているんです。

それは私たちがクラウドソーシングサービスを展開しているからということもありますが、それだけじゃありません。働き方の選択肢が増えれば、生き方の選択肢も増えますよね。住む場所を選べたり、プライベートと仕事とをトレードオフしないでいられたり、というようなことです。

たとえば住む場所を自由に選べれば、都心の高い家賃にはお金を使わないとか、親と同居するとか、愛着のある地元でずっと暮らしていくとか、ライフスタイルそのものが変わりますよね。

誰がフリーランサーを育てるのか。

― この働き方、業界を発展させていくにあたって、具体的な計画というのはあるんですか?


3つのステップで考えています。第1のステップは、クラウドソーシング市場を大きくすること。すなわち、流通する案件量を増やすこと。まあこれは言うまでもないですよね。現在、ランサーズだけでも約67億円規模の案件が動いていますが、今後も継続的にこれを伸ばしていきます。

第2のステップは、フリーランサーが“食べていけるようにする”こと。先ほどもお話ししましたが、ウチだけで食べている人というのは約100人で、アルバイトレベルを含めてもプラス1000人程度。これを増やしていくということですね。そのためには、案件数を増やすことも必要ですが、1件ごとの報酬額を上げていくことも重要になってきます。

第3のステップは、職能開発です。これはかなり難度が高く、かつ、“働き方の多様性”を考える上で非常に重要なテーマだと考えています。


― 職能開発というのは、つまりフリーランサーのスキルアップを行なう、ということですか?


そうです。我々としては、すでにスキルを保有している人が仕事を得る、ということだけでなく、今はスキルの無い人でも、クラウドソーシング市場において仕事を得られるようになる、という姿を目指しています。

ですが、いわゆる未経験者の育成というのは、これまで企業が担っていたわけですよね。その役割を、これから誰がやるのか。これが解決できなければ、フリーランスの裾野は広がらず、多様な働き方というものも絵に描いた餅に過ぎなくなります。

また、企業側にとってみれば、「せっかく採用して育てたのに、スキルが付いたら辞めていく…」なんて状況が顕著になれば、まともな事業活動ができなくなります。

サスティナブルな環境作りが、これからの大きなテーマですね。



(つづく)
▼インタビュー第2回はこちら
「会社の肩書に頼らずに生きていくためのメソッド」―ランサーズ 秋好陽介氏に学ぶ


編集 = CAREER HACK


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