「組織に所属しない働き方」にはメリットも多いが、当然ながらリスクも伴う。会社の庇護が無い中で、フリーランサーはどのようにキャリアを築いていけばいいのか。そのとき求められるものとは?“仕事を出す側”も含めた方法論を、クラウドソーシングサービス『Lancers』代表の秋好陽介さんに訊く。
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クラウドソーシングの第一人者、ランサーズ 秋好陽介氏に訊く―「人生の選択肢を増やす、新しい働き方」 から読む
― “新しい働き方”が今後広がっていくにあたって、エンジニア・クリエイターの側に求められるのは一体どんなことなのでしょうか。
先ほどは、我々プラットフォーム側がどのような“育成装置”を用意できるか、という話でしたが、フリーランサーの側には「自分を売り物としてどう見せていくのか」といった意識がより求められると思います。
どのスキルを伸ばしていくのか、どんな案件を手がけていくのか、依頼主からの見え方も考えて、計画的に自分の価値を高めていく。そんなやり方です。
ただ、その点に関しても我々プラットフォーム側から支援できれば、とは思っているんです。
いま、国が『職業能力評価基準』の策定を進めていますよね。あれって、共通の基準を設けることによって人材の能力開発や採用に役立てようという狙いなわけですが、ランサーズでも独自の職能ランクを作って運用しているんです。
まだブラッシュアップしていきますが、現状では上位から順に、トップ、エキスパート、シニア、ランサー、ビギナーというかたちでユーザーをランク分けして、クライアントに開示しています。
― 5段階ですか。かなり細かく分けられている印象ですね。ランクはどうやって決まるんですか?
スキルテストの結果はもちろんのこと、電話による面談なども踏まえて複合的に判断しています。
こういった共通化された職能ランクが整えば、企業に所属していなくてもその人に対する客観的な評価ができるようになる。それって、クラウドソーシングが発展していく中では非常に重要だと思っているんです。
― それはつまり、企業における肩書きや役職といった、分かりやすいモノサシが見えづらくなっていくからでしょうか。
おっしゃる通りです。企業において何らかのポジションに就いているということは、基本的にはそれに見合った能力を、その人が持っているからですよね。
ですが、たとえば同じ“リーダー”という肩書も、会社によって定義がバラバラですし、その会社をひとたび出てしまえば、 リセットされてしまうわけです。
そういう中で、共通した基準が設けられ、正しく付与されれば、所属組織に関係なく、スキルや実力を客観的に示すことができる。仕事を出す側にも受ける側にもメリットがありますよね。
そういったフレームを活用しながら、自分をプロデュースしていくことが、今後は求められてくるのではないでしょうか。
― 職能ランクを上げれば、仕事の報酬額も上がる、といった世界もあり得そうですね。
その可能性は充分にありますよね。ただし、資格を取得するかのようにランクを上げていけばそれでいい、というものではないとは思います。
特にITエンジニアに関しては、海外との競争というのは 今後避けられなくなってきます。どれだけスキルランクが高くても、そのアウトプットが海外のエンジニアと同等であれば、仕事がオフショアに流れてしまうのは明白です。あるいは、報酬額が上がっていかないままになる。
クリエイターの場合は、少なくとも今はまだ、それほど海外を意識しなくても大丈夫だと思うんです。日本と海外では求められるデザインテイストが全然違うので、さほど激しい競争にさらされないし、むしろ日本のクリエイティビティを求められることすらある。事実、「日本のクリエイターに発注したい」と、中国からオーダーが来ている例もあります。
ですがITエンジニアに関しては、競争が激しくなることは明らかです。
― では日本のエンジニアはどうしたらいいんでしょう。
一つには、日本人特有のホスピタリティを武器に出来ればいいんじゃないか…と思いますね。“1を聞いて10を知る”というような、日本人ならではのホスピタリティです。
つまり、全て指示を出さなくても何が求められているのかを自分で考えて動く、というようなことです。こういうのって、外国のエンジニアが真似しようと思っても、なかなかできないものだと思いますね。
もう一つは、IT技術とは全く別の能力を併せて持つというやり方。たとえば、エンジニアリング+経理スキルとか。ITスキルを縦方向に伸ばしていくのではなくて、別分野にスキルを広げて、重ねていくというようなことです。
まぁ、海外との競争云々…というのを抜きにしても、この世界では技術革新が速すぎて、職業の寿命のほうが、人間の寿命よりも短くなってしまっていますよね。エンジニアは、「技を習得すれば一生食べていける」というような、昔の靴職人のような職業ではなくなってきているわけです。だからこそ、プラスアルファのバリューを出さないといけない。私自身、エンジニアなので、それはすごく思います。
― なるほど、実感が込められているわけですね。逆に、企業の側にはどのようなことが求められるのでしょうか。
クラウドソーシングに対して懐疑的な企業というのはまだまだ多いですよね。“フリーランス”と聞くとどうしても信用が置けない…その感覚は分かるんですが、これからの時代は、うまく活用していかない手はないわけで。
確かに相手に会社の看板があれば安心できるんでしょうが、実際に仕事をするのは“人”です。人そのもののスキルや人柄というものを見極められるかが重要になってきますよね。そういったことも含めたディレクション力というのが、企業側には求められると思います。
そして、フリーランスの仕事に対して正しい評価をすること。これも重要な要素だと思いますね。それができないと、優秀なフリーランサーが育っていかず、結果として企業側も良い仕事を納めてもらうことができなくなります。
逆に、優れた仕事をしている人をきちんと評価して、継続的に仕事を出していけば、相手も企業理解がどんどん深まって、仕事の質もさらに向上していくでしょう。そうなれば投資効果も高まるわけで、一石二鳥です。
冒頭でお話しした、年商800万円のデザイナーというのも、同じ企業から何度も指名をもらうことで、ますます仕事の精度がアップしているんですよね。企業側からの信頼は、今や絶大なものになっています。
フリーランスとして働くとか、フリーランスを使うといっても、それはフレームが少々異なるだけであって、結局は人が集まって一つのプロジェクトを前に進めていくわけですよね。そういう中で個々人がいかに能力を発揮できるかは、仕事を出す側とか受ける側とかは重要ではなくて、そのプロジェクトを、“チーム”としてどう動かしていくのかが大切な気がします。
ある意味、従来型の会社員とか組織とかいう枠組みそのものの捉えられ方が変容するフェーズに入ってきているのかもしれません。プロジェクトチームの構成員がたまたま会社員だったりフリーランスだったりする、というだけのことになる時代がやってきているような気がします。
― 確かに、それに近いことをしている会社はありますね。良い仕事をしてくれた外部スタッフに、その案件が終わっても自社のオフィスを自由に使わせている、なんて話を聞いたことがあります。別の会社の仕事をしていても構わない、と。
そうすることで優秀な人材を自社に結びつけておくんでしょうね。いざ、その人の力が必要となったときにスムーズに仕事にアサインできるから、利点が大きいのかも。常に自社にいてもらえば、仕事を振る前から案件の状況を把握してもらっておける、というメリットもありそうです。どれだけデジタルがベースとなっても、結局は人と人とのつながりなんですよね。
(つづく)
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フリーランサーたちの“ギルド”が、会社組織を代替する!?―ランサーズ 秋好陽介氏のビジョン
編集 = CAREER HACK
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