2013.05.13
広告マンが、WEB業界で勝てる理由。《ドリパス》五十嵐壮太郎氏が語る、広告業界の強み。

広告マンが、WEB業界で勝てる理由。《ドリパス》五十嵐壮太郎氏が語る、広告業界の強み。

新卒入社した博報堂を4年で辞め、映画館オンデマンドサービス《ドリパス》を立ち上げた五十嵐壮太郎氏。立ち上げわずか3年弱でYahoo! Japanへのイグジットを実現するなど、その著しい成長の背景にあるのは広告業界で培った経験だという。ポイントとなるのは、“ビジネスの作り方”と“調整力”だ。

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▼《ドリパス》CEO・五十嵐壮太郎氏の取材レポート第1弾
《ドリパス》を作った男 五十嵐壮太郎氏は、なぜ博報堂を辞めてWEB業界を志したか?  から読む

広告の経験がなければ、今のドリパスは有り得なかった。

― Yahoo! Japanへのイグジットなど成長著しいドリパスですが、博報堂という、WEB業界とは異なるフィールドでの経験は活かせましたか?


一番感じるのは「企業とのアライアンス」の部分です。

ドリパスは、ユーザー自身が旧作・新作を問わず観たい映画を映画館にリクエストし、期限内に賛同者が一定数集まれば、劇場での上映が決まるというサービスです。つまり、サービスとして成立するためには、”リアルな劇場との提携”が必要になります。

今のところドリパスは100館ほどの劇場と提携しているんですけど、ここまでの展開にかかった期間って、だいたい1年くらいなんですね。


― 1年!?早いですね!


そこは、博報堂で営業をやった経験が活きたんじゃないかなと思います。


― スタートアップの中には、営業面が課題という企業も少なくないように思います。


BtoBの営業の仕方って、プレゼンのやり方やお金の取り方まで独特じゃないですか。ある意味、前職で博報堂の営業やってなかったら、上手くいってなかったかもしれないですね。



― プログラミングやデザインの経験はあったんですか?


いえ、全く(笑)必要最低限の技術知識やデザインの知識は学びましたが、あくまでも僕はプロダクトマネージャー的な立ち位置です。

起業して初めの半年くらいはシステムとデザインは外注して、基本的には一人でやってました。それで少しずつ反響がよくなってきて。外注だとスピーディな改善ができないので、徐々に内製に切り替えていきました。


― 本当に、ゼロからのスタートだったんですね。


そうですね。本当に「WEBサービスってどうやって作るの?」というところから始めたので、インターネットに詳しい人を紹介してもらって逐一質問したり、システムを作ってくれそうな会社を紹介してもらったり。人づてて、少しずつ学んでいった感じです。


― やっぱり「広告の仕事とは違う」という印象でしたか?


いや、本質的には一緒だなと思うことのほうが多かったですね。

広告の仕事って、いろんな業種の方を巻き込むんです。CMを作るとしても、カメラマン、ディレクター、タレント事務所など、畑違いの方々を集めてプロジェクトを進めていく。広告代理店の営業って、その推進役なんです。自分で描いた絵を、さまざまなスペシャリストを集めて形にしていく。というところでいくと、WEBサービスの立ち上げと、本質的には一緒なんじゃないかと。

WEBも広告も、いろんな人たちと一緒に一つの目標に向かって進んでいく、“プロジェクトマネジメント”なんですよね。違うのは、それが「何のためのプロジェクトか」という目的の部分です。広告と違ってWEBには、「ユーザーに向けて作って、きちんと反応を追う」という明確な合理性があったので、そこは新鮮でしたね。


― なるほど。広告代理店の営業スキルは、WEBサービスのプロジェクトマネジメントにも通じる部分がある、と。


そう思います。経営スキルというか、「WEBサービスの立ち上げ」や「起業」というキャリアとは、非常に相性がいいと思いますね。

広告業界の“調整力”は、WEB業界でも通用する。

― WEB業界に身を置いてみて、広告代理店のほうが優れているなと感じる部分はありますか?


そこにいる人たちのスキルという観点で言うと、“調整力”は優れているなあと感じます。広告代理店はその名の通り“代理店”なので、基本的に2社以上の間にたって調整する役割なんですよね。

一番シンプルな構図は、クライアントとメディアの間。クライアントのニーズを聞きながら、メディアのニーズも聞いて、相反するものがある中で着地点を探っていくわけですが、そのスキルというのは、代理店の営業マンに分があると思います。



WEBサービスを運営する中で、特にCGM系のサービスに顕著だと思うのですが、「ユーザーとコンテンツ、どちらを先に増やすべきか」という問題がありますよね。ユーザーが集まれば、自ずとコンテンツは増えていくけど、そもそもコンテンツがない状態で集客するのは難しい。果たして、どちらを先にやるべきなのか。

この問題にぶつかったとき、ユーザーとコンテンツの両方を、同時にうまく高めていくというのは、器用じゃないとなかなかできないじゃないですか。で、その器用さというか、バランス感覚というのは、広告代理店の営業マンに、優れている方が多い気がします。ぶつかりあうニーズを両方満たすことって、代理店が日々やっているようなことだと思うんです。


― とても興味深い視点です。五十嵐さんご自身は、実際にドリパス立ち上げの際、その強みをどのように活かしたんですか?


まず、本当に立ち上げたばかりのとき。もちろんユーザーはゼロで、提携劇場の数もゼロ、どちらも増やさなければいけないという状況からスタートしました。

劇場はユーザーがいない僕らになかなか興味を持ってはくれませんし、ユーザーも、劇場がなければ会員登録してくれません。

その両方の問題をクリアするために、まず「新宿バルト9」という、都内でも非常に大規模で、圧倒的な知名度のある劇場との提携を進めたんです。


― バルト9!ユーザー数という説得材料のない段階なので、難易度の高い大手の劇場はむしろ後回しにするべきなのかと思ってました。


その発想でいくと、「まずは小規模な単館系の劇場から」という選択になりますよね。ただそれだと一般的なベンチャーと変わりません。ドリパスの場合は、とにかく初めに大きめの劇場に協力してもらって、その情報でプレスリリースを出すことで、一気に突き進みたかったんです。

たしかにドリパスのユーザーはゼロなんですが、バルト9さんには、それを逆手にとって、「初めにバルト9の名前が出ることによって、これだけメディアで話題になります」「”1社目”なので、目立ちますよ」、と。それで、バルト9さんにも「じゃあやろう」と言っていただけたんですね。

いきなりバルト9と提携って、ユーザーにも大きなインパクトになるじゃないですか。ドリパスのユーザー獲得もスタートダッシュできますし、ユーザーが反応してニュースになれば、バルト9さんにもメリットになりますし、両者に旨味のある状況を作るというのは、まさに調整力だと思います。


― 実際、反響は大きかったですか?


そうですね。特に都内で映画がお好きな方だったら、新宿バルト9のことはだいたいご存知なので。立ち上がったばかりのベンチャーにも関わらず、いろんなメディアに取り上げていただけました。新宿バルト9を運営するティ・ジョイの方々には、本当に感謝の気持ちで一杯です。


― メディアを巻き込む、というところにも広告代理店の経験が活きたのでは?


たしかに、メディアさんの視点にたって考えるというのは、もしかしたら、なかなかできないことなのかもしれません。

メディアの事情を知らないと、「僕らのサービスって、ここがスゴいんですよ!」って、情報発信が一方的になってしまいがちなんですよね。

メディアの視点にたって、「こういう特集があって、御社のメディアだとこういう文脈で記事にできるのでは?」「競合には出してません、御社だけにお伝えしてる情報ですよ」と言い換えるだけで、全く違う反応をいただけます。

マーケティングの限界。大事なのは、やはりプロダクト。

― なるほど、“マーケティング視点”ですね。そこはやはり、広告業界の方に一日の長がある気がします。


一方で、WEBサービスってやっぱりプロダクトが一番重要だとも思うんですよね。いくらマーケティングが優れていても、プロダクトがマズいと一発屋で終わってしまう。その部分のマインドシフトに関しては、博報堂を辞めてから、自分でも意識的に取り組んできたつもりです。

FacebookもYouTubeも、モノ自体がよくて、気がついたらユーザーが増えていたわけです。ああいう姿が一番かっこいいと思うので、僕自身、ジレンマはあります。マーケティングが得意なんだけど、それだけだとサービスのスケールに直接的な影響は出せないというか。


― なるほど…。五十嵐さんにとって、良いプロダクトとは?


個人的には、“ユニークなもの”という定義が一番好きです。世の中には、他のプロダクトの焼き直しに過ぎないようなものも、実際あったりしますよね。そうではなくて、ユニークで、突き抜けていて、ユーザーファーストで…そういうプロダクトが、素晴らしいなと思います。

ドリパスを作った当時、ちょうどGROUPONが一気に広まった時期で。決済モデルとしてはドリパスも同じものを使っているんですけど、でも僕自身はGROUPONと同じものには絶対にしたくなかったんです。

GROUPONは飲食店の割引クーポンをユーザーに売るサービスですよね。でも、ドリパスはあくまでその一部、“ギャザリング決済”という仕組みを使っただけ。ドリパスがユーザーに売るのは“劇場”というハコなんです。みんなで一定のお金を集めれば、劇場をあけてノーリスクで好きな映画が観れる、という、そういうスキームにアレンジしたからこそ、ユニークなものになった。Yahoo! Japanが興味をもってくれたのも、そのアレンジがあったからだと思います。


― ドリパスって、「劇場で○○を観ませんか?」っていう、上映リクエストの中身によって、反応が大きく変わるサービスじゃないですか。いわゆるコンテンツの内容次第でプラスにもマイナスにもなる、という仕組みって、どことなく“広告的”という印象も受けたんですよね。


たしかに、言われてみればそうかも…。やっぱり無意識のうちに、前職での経験に影響されているのかもしれませんね(笑)



(つづく)
▼《ドリパス》五十嵐壮太郎氏へのインタビュー第3弾はこちら
□大企業を飛び出して成功するために必要な、たった一つのマインド。《ドリパス》五十嵐壮太郎氏のルール。

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