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なぜ、NPO法人が運営する《manavee》は開発コストの9割を独自グループウェアに充てたのか。

2013-11-11

なぜ、NPO法人が運営する《manavee》は開発コストの9割を独自グループウェアに充てたのか。

経済的な理由などで塾や予備校に通えない学生を応援したいと、1人の東大生が3年前に作ったのが『manavee(マナビー)』。無料の大学受験対策サービスだ。一般的にWebサービス開発ではコンテンツの中身に注目しがちだが、同サービスで驚くべきなのは、システム裏側のグル―プウェアにあった。

“絶対無料”にこだわった大学受験用サービス『manavee』

大学生を中心としたボランティアが講師となって、自宅などで自ら「授業」をビデオ撮影し、受験生向けに各科目のコツを指南するサイト『manavee』が人気を集めている。

授業は国語や数学、物理から世界史、地学までの計11科目。基礎的な内容から、センター試験や二次試験などの過去問の解説まで、その数は5600種類に上り、月間利用者数は5万人を超えたという。


manavee


しかも『manavee』の特徴は、徹底して無料にこだわっていること。全国30大学の学生約300人が講師役として協力し、動画コンテンツを作成。講義を受講する受験生はもちろん、講師にもアルバイト料などのフィーは支払われない。そんな『manavee』は、NPO法人が運営している。

このWEBサービスを東京大学の在学中にたった一人で生み出したのが、弱冠24歳のエンジニア。NPO法人manavee理事長 兼 開発者である花房孟胤氏だ。

今回取材してみて驚きだったのは、BtoCサービスでありながら、「システム裏側の開発に一番こだわった」と語る花房氏の言葉。その背景には、無料のWEBサービスを提供する上での大前提となる、他者の協力体制をエンジニアとして確立させることにあった。

コストの90%をシステム裏側の独自グループウェア開発に充てた理由

― 『manavee』は順調にと大学受験生の利用者を増やしていると伺いました。なぜ無料にこだわって提供をしているのですか?


世の中の多くの大学受験サービスがそうだと思うのですが、経験豊富なプロ講師を雇って、多額な受講料を徴収するものばかりです。『manavee』が目指したのは、その真逆。僕自身の体験もあって、「大学受験は地理的・経済的な格差が大きい」と痛感したんです。裕福な家庭で育った学生ほど、手厚い受験対策サービスを受けることができる。そんな受験格差を解消するためにも、無料でのサービス提供をしなくては意味が無いと考えました。正確に言うと、1000円か無料か、というような話ではなく、「WEBでググって当たり前に出てくる」という“オープン”に流通していることの前提条件が無料だ、ということです。

だから『manavee』では、受講料や住所など、対価性のある情報を一切いただきませんし、講師も内発的なモチベーションで参加してもらえるような学生/社会人ボランティアの方ばかり。「時給1000円もらえるからやる」人たちではなくて、「理念に共感してやりたいからやる」人たちとやる仕組みしたことで、少し変わった優秀な先生がたと出会えるようになったと感じています。システム全体としては、人件費を一切かけずに豊富なコンテンツを提供することで、完全無料で生徒に授業を提供する仕組みを実現しました。



― 現在300人もの学生がボランティアで参加しているのは、凄いことですね。約5600種類のコンテンツは、どのようにして集められたのですか?


まず初めに、WEBサービスを開発するという考え方ではなく、大きな“プロジェクト”を運営するという考え方で進行していきました。日本全国でボランティアの先生たちを募ることはもちろん、日に日に数が増えていく先生たちを統率する仕組みがないと、サービスとして不均一なものになってしまうと考えたんです。

だって講師の中には、15分のコンテンツを300本も作る先生もいるんですから。コンテンツの質も一定レベル以上で保持しなくてはいけない。ユーザーである大学受験生にとって、使いやすいサイトにするのはもちろんですが、その前に、大勢の学生が参加する組織全体のガヴァナンスが大前提だと思ったのです。そこで僕は、独自のグループウェアを開発することに時間をかけてきました。あまり言いたくありませんが、これまでのコストの9割以上が、そこに費やされています(笑)


― 9割もですか?驚きです。独自開発されたとのことですが、市販のグループウェアソフトではダメだったんですか?


うーん。一般の企業であれば、それで良かったかもしれません。しかし、運営陣も先生たちも、仕事や学業の傍ら、内発的なモチベーションで参加してもらえるボランティアの方ばかりですので、別システムにログインすることや2重入力などが最小になるように工夫して、なるべく低コストで使ってもらえるシステムを作る必要がありました。北海道から九州まで日本全国のいろいろな方が参加していますから、PCスキルが長けている人もいれば、そうでない人も大勢います。だからこそ、誰でも簡単に利用できて、組織統制を図れるシステムが必要だったのです。それは市販のものでは難しいことかなぁと。


manavee_group


グループウェアを一度見ていただければ分かると思うのですが、先生同士が会話をできるチャット機能も搭載しました。いつもここで、たわいもない話がされています。全国から300人以上の学生が参加しているので、当然皆が一堂に会することは不可能。このシステムに来ることが、『manavee』に来ることと同義になるのです。

だから、私たち『manavee』上における知り合いっていうのは、「あ、この人、このまえチャットで会話した人だ!」というニュアンスのもの。システムにログインしたら、オンラインマークが出るようにもなっているので、物理的な距離が離れていても、『manavee』上ではいつもつながっていられるのです。


― 独自で開発したグループウェアが、1つのコミュニティになっているのですね。


もちろん、授業を作ってくれる先生であるボランティアの方を、マネジメントするための機能もあります。どのような授業を15分間で繰り広げるのか、といった講義レジュメも申請許可制にしていますし、各先生の授業づくりの様子は、すべて一覧で見られるようにしています。例えば、ある先生が11月30日までに動画をアップすると宣言したら、そのプロセスが現在は53%まで進んでいると分かったり、1日前に更新がされているから「これは順調に進んでいる」と判断できたり。各エリアの責任者が状況を確認して、その都度対応できるようにもなっています。こんな機能をシステムに持たせようとしたら、市販製品では対応できなかったのではないでしょうか。

テクノロジーを駆使することで、インタラクションと即時性を生み出す

― 講義数が豊富な点は凄いと思います。しかし、教育という観点で考えた時に、動画サービスでは、生徒と先生のやり取りであるインタラクションや「不明点をすぐに質問できる」といった即時性がなくなってしまうのではないでしょうか?


確かに生の授業であれば、先生が生徒の顔色を見て、「分かりにくいのかな?」と思えば、その箇所を丁寧に教えることもできるでしょう。しかし、その点は当社の動画サービスでも、十分に対応可能なんです。



例えば、ユーザーが動画を途中で止めた場合に、「どうして一時停止をしましたか?」といったアンケートが出るようになっているのです。トイレだから中断したのか、分からないからメモを取るために中断したのか、授業がつまらないから中断したのか、などなど。具体的な情報をキャッチアップするシステムを開発したことで、授業の課題を先生たちに対して、個別にフィードバックすることができるんです。


― 「あ、俺の授業は5分の所で分からなくなる人が多い」と、分かるわけですね。つまり、生の授業であれば、先生が生徒の顔色を見て判断していたことを、データのアナリティクスで認識できるようにしたと。


そうなんです。先生にそれを見てもらうことで、さらに「授業を良くしよう!」「頑張ろう!」とやる気を起こしてもらうことにもつながります。また、そのデータを他の先生とも共有することで、これからの授業づくりにも役立てることができる。つまり、今『manavee』には、授業数分の5600通りの教え方データベースがあるとも言えるのです。


― 「分からないことを、先生にその場で質問できる」といった即時性の点ではどうですか?


ここも解決可能だと思っています。例えば、ニコニコ動画などで、皆で同じ時間に集まってアニメを見る、といったコンテンツがあるじゃないですか。あのような感じで、決まった時間に皆で集まり、講義の動画を見ながら質問できるような場所をつくる。そこに先生も居合わせれば、授業をする先生の立場ではなく、チューターとしてその場を即時的に共有できます。従来の教室で行なわれてきた方法とは全く違うけれど、WEBや動画サービスなりのやり方で同じ価値を再現することはできると思っています。自分の授業動画に生徒が参加しているといった生のアクションも、先生の内発的モチベーションを高めることに結びつきますしね。

これまでユーザー参加からは見えない部分に注力してきましたが、このようにサイトクオリティと言った表側にも今後は注力していきたいと思っています。


(つづく)
▼manavee 理事長 兼 開発者 花房孟胤さんへのインタビュー第2弾
営利企業 or フリー or 非営利団体|NPOを設立したエンジニアが語る、エンジニアとしての生き方


[取材] 松尾彰大 [文] 白井秀幸




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